自然素材へのこだわり

本物って何?

決して高価な材料を使うということではありません。それぞれの素材の味を、もっとも自然なかたちで活かすということです。最小限の加工で留めるから加工品ではなく本物というわけです。人工的につくられたものが必ずしも悪いわけではありません。性能を上げるための加工も立派な技術ですし、現代ではなくてはならないものだと思います。ただ、人工的につくられた均質な霜降りの成型肉よりも、天然の赤身の方が安心だという人が増えてきているのも事実です。天然の霜降りなら言うことはありませんが。

建築材料で言うと、集成材・無垢材・高級無垢材といったところでしょうか。優劣というよりは適材適所ということです。

本物は体にも環境にもやさしく、しかも長持ち!

本物は体にも環境にもやさしく、しかも長持ち!
本物を求めることは、決して贅沢ではありません。良いものを長く使うという考え方は、ものづくりにこだわる日本人にとっては一般的で身近な美学であり、社会貢献でもあります。

本物は高価だからと、本物に似せた石油化学製品が多くつくられるようになりました。供給が不安定な天然のものよりも安価で安定供給が可能。しかも手入れが簡単。工業技術の進歩により、本物に近い、あるいはそれ以上の高性能を謳うものまで現れ、工業神話が出来上がりました。

しかし、多くの石油化学製品は、一見高性能ではあるが劣化が早く短命で、中には人の健康を脅かすものも少なくありません。消費が美徳であるかのように生産効率や価格を優先した結果、現在の日本の住宅は短命な消耗品になってしまっただけでなく、シックハウス等の健康被害を生むようなものになりました。環境にも配慮した長期的な視点で家づくりを考えたとき、私たちには戦後の高度成長期からこれまで盲目的に推し進めてきた方法とは違う選択肢があったことに気付くのです。

高価なものが良いものとは限りません!

高価なものが良いものとは限りません!
有名産地のブランド米も、炊き方次第で美味くも不味くもなります。本物を目指すということは、常に一流を目指すということとは限りません。ブランド米をより美味しくというのも魅力ですが、大切なのは、米の特性を理解し、それに合う炊き方をすれば、無名米でも十分美味しくなるということです。建築材料も同じです。有名産地のブランド木材も、安価な輸入木材も、加工方法や品質管理次第で全く違うものになってしまいます。素材を知ることで、価格以上の価値を生み出すことができるのです。つくり手に必要なのは、正しい知識と技術をもって良いものをつくり続けようという想いです。コストを抑える努力も必要ですが、それがすべてになってはいけません。学ぶことを怠らず、誠実に臨む姿勢があれば、大切なものが見えてくるはずです。

原価の高い材料が必ずしも良い材料とは限りません。素材の特性を熟知し、その良さを活かせる場を心得て、熟練の技をもってそれを最大限に引き出す。求められるのはプロフェッショナルとしての自信と誇り。職人魂。

素材を活かす

素材を活かす
美味しい寿司が食べたい時、どんな店に行きますか?相応の場所に相応の店構え。店内はカウンター席でこぢんまりしているものの、清潔感があり、どことなく気品が漂っている。ネタは大間の鮪、シャリは魚沼産コシヒカリ…等々。食べる前から美味しいと思い込んでいませんか?しかし、同じネタでも切り方一つ、同じシャリでも握り方一つで全く違うものになってしまいます。

 日本の料理人の中には包丁人といわれる人たちがいます。料亭の厨房で統括管理を行う最高責任者です。外国の料理人の中には、切るだけなんて料理じゃないと言う人もいます。しかし、そこが日本人の美学。包丁人とは、最小限の加工で最大限に素材の良さを引き出すことができる最高の匠なのです。それは、素材に対する豊富な知識と、熟練の技によって支えられています。

 素材を知ること。それが素材を活かすための第一歩です。木、土、鉄、ガラス、コンクリート…建築材料には様々なものがあります。それらの特性を理解すれば、素材の持つ魅力を最大限に引き出すことも可能になります。生産効率や価格ばかりを優先して加工方法を間違えると、本来の素材の魅力を失うだけでなく、結果的に短命なものにもなりかねません。良いものを長く使うことができれば、それは財布にもやさしいということになるのです。

~木・土・鉄~

~木・土・鉄~
木の香り、肌触り…昔から木とともに暮らしてきた日本人にとって、木はとても親しみのある材料で、触れるだけでどことなく心地良さを覚える人も多いはずです。それなのに、現代の住宅の多くに使われている床材は、木目の印刷されたシートが貼られた合板です。印刷技術が進歩し、本物と見間違うほどの精度でつくられています。傷が付きにくく、掃除も簡単。最新技術が盛り込まれた高級床材として売られていることもあります。しかし、いくら印刷技術が進歩しても、木の香りや肌触りまで再現されたものはありません。それらはたいてい接着剤の匂いがします。また、本来木に備わっている調湿消臭効果や抗菌作用は期待できません。それどころか有害物質が飛散し、健康を脅かすものになっています。ホルムアルデヒドだけ規制しても不十分なのです。人は無意識のうちにそれらのことを感じ取り、天然木に心地良さを覚えるのかも知れません。これらは必ずしもすべて悪い材料というわけではありません。特性を理解し、適材適所ということです。硬さや汚れにくさを必要とする場面もあるからです。必要なのはそれらを正しく選択するための知識と応用力ということです。

塗り壁も同様です。珪藻土や漆喰等、最近はその良さが見直され、再び使われるようになりました。自然素材に対する理解が広まり、好ましい傾向と言えるでしょう。しかし、多くの塗り材には、施工性や保存性を考慮して合成樹脂が混ぜられています。利便性を追求し過ぎると、本来の自然素材の良さは十分に発揮できないかも知れません。健康に重点を置く人には、合成のものを極力排除したものが良いでしょうし、手入れの簡便さを求める人には別の選択があるでしょう。

鉄、石、タイル…様々な材料がありますが、素材の特性を理解できれば、それらを組み合わせて新たな発想を生むことも可能です。単に素材が持つ質感だけでなく、熱容量等も重要な要素になります。まず素材を知ることが素材を活かすための第一歩となるのです。